東京世紀末の真打? サヴァイバル・リサーチラボラトリーズ 日本初公演
→東京の巷に今、燃え盛る炎の中に無機質なロボットが犇めき合う構図の巨大ポスターがゲリラ的に貼られ始めている。
  そして、なぜ?という謎解き談義がバーカウンターの其処此処で何度も耳にするようになり始めた。
  まるで、御禁制の品かの様に、10年以上にわたり日本で開催する話が浮かんでは消えてきた、伝説ともいうべきサヴァイヴァル・リサーチ・ラボラトリーズ(SRL)によるロボットパフォーマンス。
  それが突如、NTT ICC(インターコミュニケーション・センター)の手によって、ミレニアムクリスマスに沸く渋谷に程近い、巨大スタジアムで敢行されることになったのだ。
  特撮映画を前にした昔の少年の様に、期待に胸を膨らましながら、その日を待つ。
  なぜ?という勝手な謎解きを肴にし、語りあいながら・・・

この項は、オンライン・デザイン・マガジン『shift』2000年1月号に筆者が寄稿した原稿をもとにしております。

 



友人(女性・作曲家談)「木登って見ておりました」

なぜか無料、先着順?

12月23日、千年紀最後の祝日である天皇誕生日、クリスマスイブ前日の渋谷の街はカップルたちの歓声に満たされ、歩道であっても前に進むのも困難な程の人ごみが溢れていた。
  公園通りを上り、代々木公園に向かうにつれて、その人ごみも消え、様々ないでたちの、それも独りが目につく人々がカップルたちと逆の方向を進んで行く。その方向には「世紀末マシーンサーカスSRL」という掲示が。
  その指示の赴くままに進むと、国立代々木競技場が見えて来る。その前には長蛇の列が…
  無料、先着順の会場は、数千人もの人が2時間前でありながら、開場を待ち、最前列の者は前日から待ちわびていたと言う。

 開場とともに、開かれた競技場の前の鉄格子に囲まれた屋外の荒涼とした特設リングには、戦うことを宿命づけられた様々な異形のロボットたちが石油の臭いを漂わせながら、静かに佇み、巨大なトランプタワーや張りぼての鋼鉄動物などの奇妙な構造物が立ちはだかり、から場末のテーマパークのように、から明るいポップな音楽がその空虚さを更に高まらせていた。
  そのリングを囲む鉄格子の向こうから、ヘルメットをかぶる者、蛍光色に着飾る者、まわりの木によじ登る者と、その奇妙な空間から生まれる何かを期待する者たちの眼差しが今や遅しとリングに向けられるのであった。

 


マシーンをコントロールするマーク・ポーリン

マシーンによるカタリシスを提供し続け20余年

→サンフランシスコに拠点に活躍する、サヴァイヴァル・リサーチ・ラボラトリーズ (SRL : Survival Research Laboratories) は1978年にマーク・ポーリンが中心となって、結成したパフォーマンス・グループ。
  ジャンク化した工業用部品をもとに手作りで作り出す、巨大なロボットを操る彼らのパフォーマンスは、人間による産業や戦争の道具としてではなく、開放したマシーン自身によるネーキッドな演技や戦いを展開させる、機械自身の破壊的ユートピアを現出させるもの。
  機械が機械そのものとして振舞うこの広大な開放空間を目の当たりにすることによって、ハイテク社会の中で抑圧されている観衆自身もカタリシスを得ることが出来るとも言われ、それが見るものをより期待させている。

"Humans are present only as audience or operators"
from SRL web site http://www.srl.org

  1997年の初演以来、アメリカ、ヨーロッパ各国で40回以上のショーを展開、今回、初めての日本公演のために、28トンにもおよぶロボットたちと機材が40個のコンテナに梱包され、11月26日に西海岸を出発、太平洋を越えて東京への参上となった。
 今まで、ラジオ・リモート・コントロール(いわゆるリモコン)による演技が主たるものであったが、今回、初めて、ICC(インターコミュニケーション・センター)からのICP/IPによる遠隔操作も使われることになった。

 


80年代、汐留でも実現しなかった
マシーンサーカスとは?

→「なおこの公演は大音量や低周波音、強い光の点滅などを伴います。万が一、御気分が悪くなられた方がございましたら、お近くの係員まで御申し出下さい」

  会場内のアナウンスが響き、フェンスの外に、配備された消防車の点滅が目につき始めた頃、けたたましいエンジン音が、石油臭い「ロボット」から鳴り響き始めた。ショーのために、マシーンにテンポラリーな生命が吹き込まれたのだ。

  時計は、開演予定の夕方6時半をまわり、7時を指し始めていた…

  ゆっくりとマシーンは動き始めた。ロボットたちの解放区が始まったのだ。
  まるで龍のように頭をもたげるロボットが火を吹き、巨大ヌンチャクを充填したものがヘリコプターの羽の様にぶん回す。
  せり出てきた岩と草が植わっている島状の巨大ハリボテが炎上し、破壊されてゆく…

 隣のテレビクルーの白人レポーターが絶叫する。
  「生きてて良かったこの瞬間!」

 巨大大砲が狙い撃ちをし、バッティングマシーンがレーザー照準によって、超高速で角材を打ち込む…
  戦争というよりいじめである…
  無抵抗の「島」が崩れてゆく…
  ロボットたちは容赦なく破壊を尽くす…
  「島」は無言で、前進を続ける。

  次の標的は犬というか猫というかメタリックな動物型ロボットだ。
  静かに前進する動物型ロボットをマシーンが付け狙う…
  角材で打ち抜かれ、ヌンチャクにえぐられ、火炎放射で燃され、大砲で吹き飛ばされて行く…

 目を転じると、巨大な看板 "Pig Licker" がぱくぱくと面をくねらしながら、そして、コラージュで塗り固められた巨大な車輪 "Woody Copter" がのたうちまわる。
  これら戦闘能力の無い、ユーモラスなロボットたちは、ばきばきと凶暴なロボットたちに破壊されてゆくのであった。

 全てが壊された後、巨大なフィールドの後ろに控えていた巨大なトランプを立てて組み建てられていたタワーが音も立てず、ゆっくりと動き出し始めた。

  これもただ、がさっと倒されるのみであった。

 

 

 

 

 

この間、約45分。

 そして、全てが破壊され尽くされ…

 じくじくと寒さが凍みる、廃墟だけが残った。

  戦闘力のあるマシーンたちが剥き出しで、 抵抗力の無いマシーンを襲う、裸の暴力。

 痛みの伴わない破壊に、カタリシスは宿ったのか?

 

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取材・編集・デザイン:岡田 智博  info@coolstates.com

 

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