June 19, 2000

もはや携帯抜きでは都市生活は楽しめない 中国・雲南省からのレポート

世界第2位の携帯大国

1999年に1800万台という世界最大の増加数を記録、このままの勢いでは今年、日本を抜いて世界第2位の携帯電話保有国になると予想されている中国。毎年約1割程度の経済成長を続けるこの国では人々の生活は目覚しい発展を見せている。経済開放によって生まれた新しい都市生活者にとって、家庭内での一般電話より気軽にかつ安価に持つことの出来たポケットベル(中国ではその受信感覚を文字ってBBと呼称されている)でメッセージを受け取り、公衆電話で連絡を取るというライフスタイルが10年程続いたこともあって、モバイル・コミュニケーションが自然なものとしてとらえられてきた。そして今、ポケットベルは地方深くまで浸透し、都市生活者にとっては携帯電話が当たり前のものとなりつつある。そのトレンドは上海や北京だけではなく、地方都市にまで押し寄せてきている。

雲南省の省都、昆明。ベトナム、ラオス、ミャンマーに国境を接する雲南省は、大きな開発の可能性を秘めたインドシナを挟んで、経済危機を乗り越え発展する東南アジアと面している。広くASEANの経済圏と結び付くビジネスセンターとして発展を続ける昆明は、周囲を取り囲む大自然と少数民族の文化を活かし、昨年開催された中国発の万博開催都市としても知られている。
この街でも今、携帯電話は大ブームの様子を示している。

都市生活者にとって手に入れやすくなった携帯電話

街の中心部にある電話局。直営のインターネット・プロバイダのビルボードと、ISDN宣伝の広告がたなびく局の建物。ついちょっと昔の様に長距離電話をするために並んでいた人もまばらになっている。一方で目を周囲に転じると、通り全てが携帯電話ショップという光景を目にする事が出来る。4車線の大通りを挟んで何百メートルも途切れなく続くその姿は壮観であり、その通りも含め電話局の周囲には少なく見積もっても50軒以上のショップが連なっている。ヨーロッパや香港と同じGSMを携帯電話の方式とするこの地域ということもあり、エリクソンやノキア、そしてモトローラなどといった多数のメーカーの機種が投入され、また、複数の中国全土をカバーする携帯電話会社が登場しただけでなく、雲南省のみの携帯電話サービスなどといった多彩なサービスと様々な料金プランの登場、そして販売代理店の拡大といった日本を髣髴させる状況によって、都市生活者にとって携帯電話が気軽に手に入るものと今やなっている。

ユーザーの拡大によって、端末の好みも変わりつつある。つい最近までは、携帯電話が成功の象徴の一つとでもいうべきものとして、その存在感を誇示するかのような大きめのものがよろこばれ、小さい電話機はあまり人気が無いといわれてきたが、普通のビジネスマンやOL、お役人さん、特に若者が自分の携帯として多く持つ今では、日本や欧米で人気の出るような小さくておしゃれなデザインのものが売れ筋だと、ショップの店員の話。安さと品揃えで勝負とばかりに、ロードサイドには特価と注目の入荷品がそれぞれのショップの前に目立つように掲げられ、それぞれの端末のデザインが引き立つように並べられ、もはやライフスタイルの一部となっているのが一目瞭然となっている。
夜になって、この街で一番盛り上がっているクラブへと繰り出すと、ユーロビートがけたたましく漏れるエントランスの周りで、何十人もの日本でも違和感が無いようなクラバーたちが、色とりどりの小さな携帯を持って話に花を咲かせ、何時ものように誘う光景が夜が白むまで続く様にである。

ポケベルはキャンパスライフの必需品

若者が携帯電話なら、大学生、そして高校生(中国でいう中学生)の間ではポケベルがもはや当たり前に欠かせないものとなっている。大学は全て、そして中学でも多くの場合で寮生活という中国では、外部とのコミュニケーションツールとしてポケベルが威力を発揮している。
昆明から300キロ、白族を中心に少数民族独自の風情を残す、山あいの湖畔の街、大理。年に一度の大バザールの最中、カフェで出会った仲良し女子高生トリオは寮暮らし。中国有数のエリート大学を目標にいつも勉強に励んでいるとのことだが、バザール休みということかまるで普通に日曜の心斎橋で出会いそうな服装で、ガリ勉という様な感じに見えないが、とにかく英語はうまい3人。いつでも連絡が取れるようにとそれぞれ親からポケベルを買ってもらっている。ポケベルでメッセージをもらうと、公衆電話で連絡を取るということで、寮暮らしでも何の不自由も無いとの話。
中国のポケベルは、オペレーター経由でメッセージをつけると、漢字(もちろん中国語なので)でメッセージが伝わるというがデフォルトなので、日本で携帯メールが出来るずっと以前から、柔軟なモバイル・コミュニケーションが展開されてきた。ショートメッセージのやり取りはポケベルで十分なのである。(なのでわざと英語の分かる人に通訳を頼んで中国語で送ってもらう裏技を私はたまに使ったりするのだか)
仲良くなったのでベル番をもらい、翌日、ベルを鳴らして待ち合わせ。みんなで湖へピクニックに・・・ 遊び疲れた夕方。「あっ」とその一人が。ポケベルに「遅いよ待っているよ」とメッセージが彼女たちの友達から。「やべー、時間間違えた」と一緒に公衆電話を探しながら別れるのであった。

仕事場でも学校でも、仕事の連絡は職場や学校の電話で、そしてプライベートはポケベル、そして携帯電話でというのが都市では当たり前。仲良くなったのに、ベル番しかもらえなかったということは・・・ という訳でなく、中国では仲良くなったからこそもらえたというもの。何しろ通常の回線の電話が元々そこいら中にある訳ではないので、それが一番確実な連絡方法なのである。何と、中国電信から分割して生まれた中国最大のモバイルキャリア、中国移動通信のメインサービスだとポケベルも携帯電話も広大な全中国(市制地域の96%)をカバーしていたりもするのだから。