November 18, 2003
第1回 DiVA芸術科学会展
高度情報ネットワーク時代に
不可欠な新たな表現の評価の場を目指して
入賞作品講評
- cool states
- 11:42 PM
- Category: IT時代のアートとデザイン |
- Category: これは「IT革命」!
5月20日より23日まで東京工業大学で開催された、第1回目となるDiVA芸術科学会展より、入賞を果たした作品についての解説と講評を掲載する。
作品・成果物評価がアカデミックな価値尺度となるという、他に例の見ない、高度情報ネットワーク時代の要請から生まれた、本学会が拓く先駆的取り組みである、DiVA芸術科学会展に関する運営および芸術科学発展のための意義に関する論考編はこのページに掲載するので、併せて読んで頂きたい。
(DiVA芸術科学会展 運営委員 岡田智博)
加えて入選作品写真をカラーで収録した同講評は
芸術科学会誌DiVA第5号に収録させている
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大賞 「青の軌跡」
鈴木太朗(東京藝術大学・院生)
「青の軌跡」は “風” をモチーフとし、デジタル制御によるアナログでのアウトプットを表現手法としている作品である。7列×7列、計49個の正方形の窓が開いている箱型のもので、これらの窓内部にはそれぞれ風が起こるようにプロペラが仕組まれている。これらのプロペラは、作品側面にある赤外線センサーからの反応で一定の規則を持って動くようにコンピュータでプログラムされている。窓の上全体にはオーガンジー(化学繊維)をかぶせてあり、プロペラが起こす風により窓周辺のオーガンジーが数ミリ程脹らむように出来ている。作品内部から出る青い光がプロペラで起こった風により脹らんだオーガンジーに反射し、窓枠周辺がその反射光で光る。視覚上では窓枠に青い光りが滲み、周囲の窓よりも光って見えるように演出されている。
技術的には最先端のものでないが、コンピュータ制御によるインタラクティブなインスタレーション作品として、際立った完成度を誇示した作品であり、審査判定会において全会一致で大賞に推された。鑑賞するために立ち寄る人々に対して、センサーが反応、おぼろげな光として幻想的に生成される光の列と風車の風きり音は、新鮮な美的体験を催す。また、これらがセンサーをもとにしたコンピュータ制御の作品でありながら、意匠として一切これらコンピュータ的なものが巧みに隠されており、「アナログ的」風合いを感じさせる作品として完全に処理されており、作者の意図としての美的体験に見る者を専念させることに成功している点が魅力である。
優秀賞 「bouncestreet−弾む街角−」みやばら美か、すぎもとたつお
「bouncestreet−弾む街角−」は、街角など不特定多数の人々が往来する屋外の公共空間で発表することを想定したパフォーマンス・インスタレーションである。普段意識することのない街角の色の変化−店舗のサインや人々の服など−をリアルタイムに捉え、その場でプログラミングをもととしたアニメーション画像にして、人々に提示することを意図した作品である。
この作品は多くの場合、街角など人々などの往来の多い動的空間に設置することが企図されており、設置場所においてビデオカメラを設置、定点撮影を行なう。このカメラは、街角の色の変化を捉えており、撮影された映像は、オリジナルソフトウェアによって、定期的にモザイク状に並んだ色つきボールの画像へ変換する。それぞれのボールの色は、その位置におけるビデオ映像の色あいを反映、これらのボールは、その後次々と自然落下し、地面で弾むアニメーションへ変化する。この一連の映像を、高輝度プロジェクタで近くのビルの壁面や柱などに投影するものである。ボールの弾み具合や、弾んだ時に奏でられる音の高さや強さは、各ボールの色に応じて変化、ビデオ撮影のアングルや、通りがかった人々によるアクションによって、アニメーションはダイナミックに変化する。
街角という公共空間において、不特定多数の人々が反応を体験し、楽しむことが出来る作品として、高い訴求性を持てる高い完成度を持っている点が審査において特に評価された。この作品もやはり、鑑賞する者に機械としての存在を悟られずに、反応を楽しみ、その反応に参加できる作品として成立している作品であることが注目できる点である。
優秀賞 「the Labyrinth Walker ラビリンス・ウォーカー」しらいあきひこ【発案・制作】(院生)、岩下克【開発】(院生)、長谷川晶一【技術】(院生)、佐藤誠【監修】(教授) (東京工業大学精密工学研究所)
「ラビリンス・ウォーカー(the Labyrinth Walker)」は、広視野床面スクリーンとターンテーブルによる構成で、体験者が一切の装着物なしに、バーチャルな迷路の世界を歩き続けることができる作品である。床面に投影されたプロジェクタ映像の上で足踏み動作をすると、床に埋め込まれた工業用ターンテーブルに内蔵された4つの感圧センサーが体験者の重心動揺を検出し、歩行ステップの状態を認識する。この「装着物なしの歩行回転打消し機構」は、当初、正面に設置された大画面ディスプレイにおいて、体験者が気がつかないように正面を向かせ続ける技術として開発されたものであるが、新たに同作品に適用することによって、無限かつ自由な方向に歩き続けることのできる没入感覚の高いバーチャル世界へ、実世界から連続的に歩み入れることができる新規性をもたらした。
同作品で歩行できる世界は「草原」「無限迷路」「蟻地獄」の三層に分かれており、各層に存在する穴から落下することで別の層に行くことができる。蟻地獄の穴は草原につながっているので、体験者は歩行を続けるにつれ、自分が縦にも横にも無限迷路の世界にいるという事に気づくというデザインになっている。このコンテンツとなる世界は、3DStudioMAXでデザインしたVRMLで制作されており、VRMLを差し替えることで、さまざまなコンテンツを体験することができるようになっている。
作品そのものの仕上がりとして、体験するものに装置の存在が大いに認識させるものであったり、コンテンツそのものも表現として荒削りな点があるが、体験する者が特別な制約無しにシンプルに没入感を楽しむことが出来る点、また、そのことを実現するために独自の技術開発を行ない、作者の意図にそったかたちで成功を収めた工学面における新規性と先進性、そして迷路というコンテンツの面白さが高く評価された。
奨励賞「Pseudo-3D Photo Collage @Enro」−擬似3次元フォトコラージュで再構成された中国・円楼の空間−
田中浩也(京都大学情報学研究科・研究員)、伏見隆夫
この作品は、擬似3次元フォトコラージュシステムを開発した田中と、世界各地を旅行し写真撮影を行ってきた伏見とがネット上でのコラボレーション活動を行なうことに生まれた作品である。作品の表現手段であるソフトウエアは、田中が研究開発したものであり、同ソフトウエアをWeb上に無料公開したのが発端となり、伏見がそれを用いて中国・円楼地区を再現する作品を制作したものである。
作品の制作と閲覧のために用いられる田中が開発した「擬似3次元フォトコラージュシステム」(http://www.photowalker.net/)は、近年、デジタルカメラやカメラ内蔵型携帯電話の普及に伴い、一般の市民が大量のデジタル写真を撮影・収集するようになってきたIT社会の成熟という背景の中で、デジタル写真を素材として2次的なコンテンツを制作・編集する方法が定着しておらず、いわゆる「デジタルならでは」の加工法・利用法は検討する余地が残されているという着目点から開発されたものである。田中の考えによると「デジタル写真をWeb上に公開するケースも増えているが、その多くはアルバムのような形式か,単純なスライドショーの形式であり、旧来のアナログ写真の発想に留まっているものが多い」というのだ。そこで、田中は写真のなかに含まれる、共通の位置や対象の箇所どうしを互いに繋ぎ合わせることで、簡易な仮想空間(バーチャルリアリティー)を作り出す仕組みという、従来のバーチャルリアリティーのように特殊な機器を必要とせず、写真を用意するだけで誰にでも簡単に制作ができるオーサリングソフトウエアとして同システムを開発した。このシステムの開発の中心には、リンクで接続された写真のネットワーク(ハイパーフォト構造)と人間の錯覚を利用した擬似3次元提示手法(擬似3次元フォトコラージュ)が据えられており、結果、デジタルカメラによる空間コラージュによるブラウザ上の仮想空間を誰もがパーソナルコンピュータ上の画像編集ソフトのインターフェイスに慣れ親しめるレベルであったら、容易に作り出せるシステムと同じく閲覧のためのシステムを新規に開発することに成功した。今回の作品は、このシステムを実際に、オンライン上で初めて知った伏見が活用し、自身が撮影した中国大陸南部にあるユニークな建築である円楼の内部を散策するかのような作品を仕上げることに成功した。
田中が創り出したものはコンテンツ生成を支援するためのソフトウエアであり、コンテンツ次第でこのソフトウエアそのものの評価が変わるという危うさがあるのであるが、今回、写真撮影を趣味とする伏見が撮影したコンテンツの素材となる写真が興味深いものであったため、田中のソフトウエアそのものの新規性や創造性を深く評価できる一助となった。また、実際に同ソフトを用いて一から伏見がオンライン上からダウンロードをし、制作を行なったという結果がこのようなかたちで結実したことは、インターフェイスとしての完成度を物語っており、その点もまた高く評価できるものであると筆者は考えている。
奨励賞「インタラクティブアート作品 "C/t -cycle of touch-"」
松村誠一郎(東京大学大学院学際情報学府・院生)
「インタラクティブアート作品"C/t ‐cycle of touch-"」は鑑賞者の「触れる」行為が音に変換され、それを「聴く」というプロセスによって成立する作品である。鑑賞者が金属や木のオブジェクトを「叩く」「ひっかく」「擦る」「落とす」という単純な「触れる」行為が生み出す音は4秒ごとに録音され、16回くり返し再生される。これらの音は、処理が掛けられ、原音となる金属や木の素材の違いとともに音の表情は変化する。鑑賞者がオブジェクトに触れる度に音は加えられ幾層にも重なり、様々なリズムを生じさせる。
箱状の作品本体の上面に、金属と木材によるオブジェクトを配した仕上がりは、シンプルながらも意匠としてまとまったものであり、作者の意図であるオブジェクトを触れる行為に鑑賞する者が自然に誘われるかのようである。これらオブジェクトの裏側には物体の振動のみを感知し、通常の音声は録音しない自作の特殊マイクを設置されており、箱本体の内部にはマイクからの情報を処理するコンピュータ、オーディオミキサー、エフェクターが設置されている。これらの存在を意識させることが無いように、作品の意匠は仕上がっている。音は、箱の本体から1mほど離れて設置された2本のスピーカーによるもので、箱の周囲で体験する鑑賞者は、自身そしてそれ以前の鑑賞者がつくり出した振動音とそのリズムに包み込まれる。
体験者が機械の存在を意識することの無い、意匠の仕上がりの高さと、鑑賞者が振動させた結果から生み出される音空間のインタラクティブな意外性を体験させる作品としての魅力と新鮮さが評価された。
DiVA2003賞(審査委員会特別賞)「CM process#2」
松尾 邦彦(inter media performance unit nest)
「CMprocess」は、パフォーマンス劇団であるintermedia performance unit nestとともに、パフォーマンス作品生成プロセスとして開発した、パフォーマンス生成プログラムである。出発点は、オブジェクティブなダンスパフォーマンスの構成法を考えることであったが、コンピュータなどのデバイスを導入することで、身体同士だけではなく、舞台を構成する様々な要素が複雑に絡み合うパフォーマンスのリアルタイム生成を実現させている。
近年、コンピュータ等のデバイスをパフォーマンスアートに取り入れる作品が多くなってきている。それらのデバイスの価格低下により、誰もが最新のコンピュータ、ソフトウエア、映像機器などを導入して作品を構成することが流行している中、それらのテクノロジーがいわゆる「ギミック」として使われる例は数多く見られるとしても、既成の作品の制作プロセスを自動化したのが新規性である。その背景には、見た目の新奇さの追求や技術のデモンストレーションとしてのテクノロジーの活用ではなく、「特定のディレクター不在のなかで、トップダウン型の制作方法ではなく複数のアーティストによるネットワーク型の共同作業は可能」かという、劇団自身から生じたニーズによるものであった。
演出家による審美的判断に基づいて「振り付け」「演出」がなされるということが、一般的なダンス作品の制作方法である。しかし、作者が設定したのは、「どのようにしたら、人は動き始めるのか」というシンプルな問いからによるものであった。ダンスという概念をひとまず取り払い、ダンスをする身体を分析し情報として処理することから始めたのである。これを実現するために、「動き生成ツール」を開発、ダンサーはツールが指示するコマンドを参照して、具体的なオブジェクト、自らの身体、他者の身体と関係を結び続け、判断して動き続ける。また、これら演じ手を独立したオブジェクトとしてカメラを入力手段に把握、リアルタイムな情報として処理することで、解釈し、アウトプットすることで、演じている環境そのものが複雑かつ、演出された作品として成立して行く。この動きは、ダンサーに対する支持だけでなく、照明や効果音のコントロールにも結びつき、一人一人のダンサーの振る舞いをもとに一つの演出されたダンスが自動生成されて行くのである。
パフォーミングアーツにおいて、新奇な演出手段として最新の視聴覚テクノロジーが多用され、一つのブームとなりつつある中で、演出そのものを情報処理化し、ひとつのステージを創り出す[CMprocess]は、ユニークなアプローチでかつ、全く新しいものである。その上で、テクノロジーによる演出によって陥りがちな機械誇示的な部分が存在せず、肉体的に鍛えられた女性ダンサーのダンスがメインとなっていること、また、システムによって出力された指示によって振舞うダンスの動きのおもしろさが評価された。しかし、同作品は、実際に展示を行なうことが不可能なこと、また、システムそのものはおもしろく、ビデオでも推量可能であるが、実際にどこまでこのシステムが練れているのかに関して、未知な部分も多く、一歩踏み込んだ評価が難しいことから、今回、特別賞として表彰されることとなったのである。
了