Yue Mingjun 2000

 

走雲南 why do they run to Yunnan?
ニーマン・インタビュー

2000/04 大理古城:雲南省

→今や世界のコンテンポラリー・アートを語る上において、欠かすことの出来なくなったメインランド・チャイナのアーティストたちとムーブメント。
  欧米や日本のアート・ジャーナリスムの絶え間ない注目が首都北京を中心に大都市に向けられる中、数多くのアーティストが活動の場を遠くビルマ・ラオスの国境に近い雲南省に移しつつある。
  そこには、北京やニューヨーク、パリでは成しえなかったライフスタイルがあるという。 このアーティストにとっての新たな生活圏を切り拓いた一人のチベット人オーガナイザー:ニーマンにインタビュー。
  メインランドのアーティストが愛する雲南のわけを探る。

この項は、オンライン・デザイン・マガジン『shift』2000年5月号に同じく筆者が寄稿しております。

 

 

雲の南の千年の都

漢民族が雲の彼方の地だと例えた雲南。

  バンコクからTGのフライトで1時間あまり、中国で一番東南アジアに近い大都市、雲南省の省都・昆明に辿り着く。
 そこから国内線に乗り継ぎ30分、数百年前まで漢民族ではない独自の民族による首都であり、未だその面影を残す大理へと到着する。
 古の王国の民が海と呼んだ満々と湛える巨大な湖と遠くヒマラヤ山脈へと連なる万年雪の山が聳え立つその街には中国に住む50の少数民族の内の30が住むという雲南省の中にあって、同じく幾つもの少数民族が古城の中の町屋に住み、毎日の生活を営んでいる。

 

 

 

アーティストはなぜ走り始めたのか?


→空港から降り立ち、様々ないでたちの人々を次から次へと乗せ満員のライトバンのバスを乗り継ぐこと1時間、その城下町と辿り着いた。

 大理古城、そこは昔ながらの石造りの町屋の家並に統一され、古の王国の主であった白族を中心に様々な民族がそれぞれのモードで行き交う巷。
  背後に雪山が聳え立つその光景は、バックパッカーたちに中国のカトマンズと呼ばれ、15年程前より外国人による訪問が開放されて以来、多くの旅人を魅了してきた。
  そしてその中の長期逗留者たちと地元のユースの手によって、カフェやラウンジが生まれ、ゲストハウスが生まれ、そしていつしか中国各地からアーティストたちが集まり始め、滞在し、ギャラリーが生まれるようになった。

 今年、メインランド・チャイナでは画期的な都市展開型のアートプロジェクトとワークショップ "…BETWEEN…"「…之間…」がこの街で展開された。

なぜ、アーティストたちが北京や上海、パリやニューヨークからこの山あいの雲南に走るのか?

アーティストのためのワークスペースを古城に提供しているオーガナイザーであり、今回のアートプロジェクトの主の1人として現地のホストをつとめたニーマンにその「わけ」を聞いてみた。

 


ニーマン


イースター休みで香港から来た少しトライバルが入っているOLさん。グレーター・チャイナのユースには雲南と西蔵はトライバルなディスティネーションとして大注目中。


ニーマンのアトリエ

CS:
→なぜ今、中国のアーティストは大理へ向かおうとしているのでしょうか?

ニーマン:
→アーティストとしてやっていく上で、北京や上海、それにギャラリーに招待されてニューヨークやパリに滞在しても疲れて行く人が多くなって来たのだよ。
  北京だとうまくアート界に組み入るか、さもなければ、過剰なパフォーマンスやアクティビズムな方向に走るかといった空気になってしまう。上海だとより商業的な成功を考えなければならない空気がある。
  何しろ、これらの街は生活費がべらぼうに高いから、目につくようなことをするか、どこか会社や機関に入るかしないと表現どころか生活もおぼつかないからね。
 一方で、ニューヨークやパリといった国外に行くとまた、華やかでお金になるように見えて、一方では自分の作品で多大なお金を手にする人があるかと思えば、ギャラリーとの折衝や自分自身のアーティストとしての立場を維持するために、心身擦り減らすような気分になる人も出てきた。

 そうなると、中央から遠く離れて、気候も良く、異なる文化があって、物価も安く、住むのも容易な大理に自然と目が行くようになったのだよ。
 何しろ、ここならばアーティストとしての創作活動だけに打ち込めてかつインスパイヤされる生活環境だからね。

 15年程前、この地域が対外開放されて、多くの旅人が訪れるようになった。結果、私たちが持つ(ニーマンはチベット族、奥さんのシャオ・ミンは白族でともにコンテンポラリー・アーティスト)少数民族文化やアートによる表現と触れてもらえるようになって、自分たちの手で発展させることが出来るようになってきた。
 そこで、10年程前、この街に私たちはギャラリーを開き、インデペンデントなアーティストとして十分な活動が出来るようになって来た。
 一方で、中国人自身もここ数年で自由に旅行が出来るようになり始めた中で、中央を離れ、自分自身にとって表現するにふさわしい場を探してきたアーティストたちがこの街を訪れるようになったのだよ。

CS:
→そういえば、10年程前の一時期、アーティストたちが北京を離れ、チベットや新疆(旧東トルキスタン)に大挙して向かうという動きがありましたが・・・

ニーマン:
あれは、中央で閉塞感を感じてしまった若者たちが何かを求めて向かったことでしか無いのが多くて、あまり意味をなさなかった。
 今、ここに来ているというのは、明らかにこっちの方がアーティストそのものになることが出来るという現実的な環境に対する考え方からやって来ているよね。
 ギャラリーがあって、自分の作品を自由に販売し、それを外国人が買ったり、また情報が世界のアートシーンともつながり始めているという私たちがしてきたことに、うまく乗っかって来れるようになっているし、一方でカフェやラウンジで働くことも自分自身で始めることも出来る。
 もちろん、作品を売っても、この街で働いても、北京やニューヨークやパリよりお金は少ないけど、それでも殺伐としない環境でフリーに活動できるというのが何よりも魅力的なのでしょう。
 とても遠い場所という感覚も、インターネットを持つことで無くなって来ているし。

CS:
"…BETWEEN…"「…之間…」はどういうプロジェクトですか

ニーマン:
世界的に注目を集めている3人のアーティスト、方力鈞 Fan Lijun (昨年のベネチア・ビエンナーレに招待)、岳敏君 Yue Mingjun(同じくベネチア・ビエンナーレに招待、福岡アジア美術館のオープニング・ポスターを飾る)、叶永青 Ye Yongqing を大理に迎え、古城の町屋に住みながらワークショップと創作活動を展開するもの。
  この大理という一般的な中国社会とも西洋文化とも異なるユニークな場所で、どの様な作品が生まれ、どの様な交流がこの場所で生まれたのかというのが興味深いところだよね。
  今回、私が運営している大理メコン文化芸術中心 Dali Mei Gong River Center of Art and Culture と他に、昆明上河會館 Kunming Up River Club 、成都上河美術館 Chengdu Up River Art Museum が共同で開催する、完全にインデペンデントなプロジェクトだよ。

 


上河會館2Fギャラリー


"…BETWEEN…"での岳敏君の作品:よく見るはここをクリック  (上河會館展示)

そこには「発掘」されたものでは無い
素のクリエイティブの発露があった

→"…BETWEEN…"「…之間…」で作られた作品は、雲南省の省都、昆明にあるカフェ・ギャラリー、上河會館で見ることが出来る。

 上河會館は1940年代、地元の銀行家が私邸として華やかなコロニアル形式を以って建てた後、新中国を経て主を失い、老朽化の憂き目に遭っていたものを叶永青がプロデュースし、昨年1月にオープンしたプレイス。
 
カフェの2階のギャラリーにそれは展示されている。

 それぞれ、ベニスでも福岡でも見ることの無かった、ときにリラックスぶりを感じさせる作風がそこにあり、私自身驚きすら感じられた。
  特に、自画像を主に置いた作品を展開する岳敏君の作品の一つは、常に氏の作品は笑顔なのだが、満天の星の下、こちらがのりうつってしまう位の笑顔が描き込まれ、氏にとっての大理というものを誰にも感じさせてくれるようなものになっている。

 思えば私が10年前、初めて大理を訪れたとき、夜行バスのドライブイン(といっても山の中の煉瓦の小さな茶屋)で見上げた手を伸ばせば届く位の満天の星が今でも網膜に焼きつく感があるように、岳敏君にとってもその星とその許にある大理は北京とも他の外国の大都市とも異なるものを与えてくれたのであろう。
 そして、ニーマンは、混沌とした現代の様相の向こうにある希望として常に隔てなく輝き続けるミルキーウェーに想いを馳せる作品を創り続けている。

 今回のプロジェクトの作品群だけでなく、上河會館には現在の中国の現代絵画で見逃すことの出来ないであろう作品を多数目にすることが出来る 。

 


上河會館


上河會館


MCAのワークスペース


古城のラウンジにて

 

 

会社にして自分の力で資金を運転することによって
独立した活動が得られた

→実をいうと上河會館も大理メコン文化芸術中心も、全くインデペンデントな有限会社として運営されている。

 ニーマンはこう語る「会社にして自分の力で資金を運転することによって独立した活動が得られる」と。

 上河會館はカフェの収益で、そして、大理メコン文化芸術中心はMCAというゲストハウスとカフェ、インターネット接続、それにギャラリーの収益で経営し、アートセンターとしての活動も実現している。

 その事業もまた、アーティストであり、オーガナイザーとしてのセンスが光るもの。
 上河會館はお尻に根が付きそうな快適なカフェであり、雲南名物のとびきりのお茶とコーヒーを絶妙の入れ方で出してくれ、フードも山国雲南の幸をふんだんに活かした手軽なプレートを出してくれる。
 MCAは白族の町屋を活かしたバジェット感覚のある居心地のいい場所を与えてくれる。

 その上で、これらの街を訪れるアーティストに国籍を問わず、滞在して活動が出来るワークスペースを提供している。

  「大理で表現を求める人を歓迎し、場を提供し、そこから沢山のいいものが生まれて来て欲しい・・・」(ニーマン)

 この夜、古城の中のラウンジで、つい昨日、北京から大理に辿り着いた女流画家に出会った。
 先にパートナーが仕切っているそのラウンジを拠点に、数年間、創作活動を続けるという。大理に来る前に絵を買ってくれたイギリス人に対して、お礼のメールを打ちながら、彼女は語る。

「ここなら北京より落ち着いて創作に打ち込めると思う。遠くに来て不便なこと?それは無いと思う。もう来年にヨーロッパで個展を開く準備を行っているのだから・・・」

 

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取材・編集・デザイン:岡田 智博  info@coolstates.com


行ってみよう!!

昆明へは:
バンコクからタイ国際航空が毎日就航  1時間半ほどで到着
日本からは関西空港より週2便、JASが直行便を就航、国内線なみの飛行機とオーディオで4時間半で到着 格安航空券で安値気味
香港からは離陸から着陸までワインを注ぎ続けるナイスなホスピタリティーで私は大好きでこの向きの人も好きな港龍航空(ドラゴンエアー)が週2便就航中
中国は別途ビザが必要なので詳しくは旅行代理店で

上河會館 昆明市后新街7号
No 7, HouXin Road, Kunming, Yunnan, China
FAX: +86-871-3181464

大理へは:
昆明からボルボ社製の高速バスが5時間で結んでいる
飛行機は昆明から1日2便就航している

MCAはホームページを持っている
そこで大理への旅行情報やニーマンの活動について知ることが出来るだけでなく
問い合わせも可能だ

MCA : Mekong river culture & art center
http://yunnanhotels.com/emca.htm
(英語)

Inter art 21(ニーマンと叶永青によるアート・オーガニゼーション) http://www.interart21.org/ (英語)

なお、あの「地球の歩き方」には雲南編もある。

メインランド・チャイナのアートシーンを知るためのブックマーク

「ニューサイバー・チャイナタウン」
野猫による北京アート・ドキュメンタリー(日本語)
http://www.comdex.ab.psiweb.com/newcc/new/index.htm

福岡アジア美術館 http://faam.city.fukuoka.jp/

coolstates による福岡アジア美術館のレビューはここ

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