注:写真・映像のクレジットの無いものは全て著者によるものです |
本当、こわいよ INFOWAR って すぐそこにあるんだもの →テーマ INFOWAR の核心に迫るシンポジウムがドナウ河畔のブルックナーハウスにてフェスティバルの前半である9月8日から9日までの2日間にわたって行われた。 →情報通信の世界規模での発展の中で "Information Warfare"(情報面での戦闘状態)が地球上のどこででも起こりうるだけでなく、そのことが日々の生活に壊滅的影響を起こし得ることが可能となった現在であるという問題意識が深まっていることもあって、世界中から学者やジャーナリストのみならず軍事関係者や国家情報関係者、職業軍事専門家といっためったに話さない面々やアタック側のメディアアクティビストまでが集まり、問題意識を発言、意見を交換、共有化した。 →英語の通訳の発音がゆれゆれな感じで頭クラクラ、かつ、軍事戦略話だけあって論理的で頭クラクラ、おもしろいので居眠りできないで知恵熱出しまくりで精神体力消耗が激しかったシンポジウムでした・・・ ぼろぼろでアート部門の作品見学が十分にできなかったぞぅ |
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知らない間に戦争に巻き込まれているかもしれない
→「コンピュータによる社会支配が地球上で行われている今というのは、効果的なテロが容易に出来る世の中の到来を意味する」フリードリッヒ・キットラー Friedrich Kitter (Media theorist, professor of Media History and Aesthetics at the Humboldt University, Berlin, DE) とプログラムの1人目から語り始めるシンポジウムはまさにこんなに脅威が潜んでいるとまるで肝試し状態。キットラー氏は「ネットワーク化によって支配が容易になったことの反面はそのネットワークを逆に活用してテロリストや犯罪組織があらゆるボーダーを超えて結びつき、容易にネットワークの弱点を見つけ出し機能を麻痺させることが可能になっている」とのべ「たとえ組織であろうが個人であろうが国家をアタックすることが出来る、草の根INFOWARの到来だ」と語った。 まさにニューヨーク・ワールドトレードセンター、ケニア・タンザニア両米大使館爆破、そして営団地下鉄のサリンと、あらゆるネットワークのグローバリゼーションの結果としていつもの生活を送っているその場でアノニマスな存在によって戦争状態に無防備に巻き込まれる世界に突入してしまったことを再確認するしか術が無い今ということがこの場で浮き彫りにされたと感じられる。 →しかし、既にこのことはアメリカ軍にとっては有効な攻撃手段と手段と認知されているだけでなく、一方で攻撃を受ける可能性を持っていることは早く認知されていた。インターネットのもともとのなれそめもコンピュータを用いた集中処理管理が直接的なインフォメーションアタック -メインコンピュータの破壊- によってもろくも崩れ去ることを避けるための分散処理システムのためのネットワークだったように... そのアメリカ軍の中でも空軍における information warfare に対する見解を発表したのはジョージ・ステイン George J. Stein (Member of the faculty of the USAF Air War College and the Chairman of the Department of Future Conflict Studies)。ステイン氏は「米空軍が定義する information warfare が、機械操作、情報操作、感覚操作の3つのカテゴリーに分かれ、それぞれの攻撃方法について実用的な研究が行われている」と"I don't kwon, how..." と具体的な例をはぐらかしながら語っていった。直接、コミュニケーションシステムに爆破などの方法で破壊してゆく物理的な機械操作の手法が攻撃面での情報武装もあって確実な進歩をもたらしている一方で、プロパガンダなどの手法で戦意喪失を狙う情報操作・感覚操作の部分で、独自の報道を地球規模で行うCNNの存在が「具体的戦術にとって阻害要因になりつつある」と語り、グローバルメディアという情報インフラの確立によってコスモポリタン化してしまった自国メディアが、物理的にははるかに力を持つ自国の統治システムそのものを結果としてサボタージュする力を持ってしまったことは皮肉としか言い様も無い現実を独白した。 このようなグローバルメディアの存在や、国家では無く集団に帰属する存在、そして、個人によるネットワークアタックなど、国家の概念では把握できない存在に対する対策に対し効果的な防御方法を危機意識を持ちながら未だ持つことが出来ない苛立ちを発言を通じ感じたのであった。「こんな時代になるとは想像だにしなかった・・・」というため息が口々に壇上から聞こえてくるかのような発表が続くブルックナーハウスの雰囲気であった。まさにはかなきものに命や社会を委ねてしまった守る側の今更の戸惑いだらけ・・・ →ところが一方で、勢い良く対峙しようじゃないのという存在もある。それは中国。中華人民共和国全人代 the Finance Committee 所属の未来学者、シェン・ウエイガン Shen Weiguang 氏は「中国における INFOWAR の定義は1989年に定義付けられた」とのべ、そのインフォメーションアタックがもたらすものは普通の戦争と異なり、湾岸戦争のような軍事情報システムそのもののアタックにのみならず、情報麻痺による社会生活へのアタック、 戦争状態における精神操作にわたると定義付けたと表した。このことは「後方の情報システムの麻痺の結果、数多くの人民が被害者と瞬時になる恐ろしいものである」と語り、重大な関心を国家的に持っていることをうかがわせる一方、「人民自身が INFOWAR をすることが簡単にできる、なぜなら誰でも手に入れることが出来るコンピュータチップをうまく動作させるだけで可能なのだから」とさらりと根底的考え方を次いで言ってのけた。正直である。 その上で、通常の戦争と異なり、今はいつも戦闘状態と同じであると認識していることをシェン氏は語る。「高度情報社会は国内問題と国際問題の境目を無くし、ナショナルテリトリーを常に侵している」「ネガティブインフォメーションから守るために『インフォボーダー』を構築し『インフォテリトリー』を防衛しなければならない。そのためにどうINFOWARを組み立てるのかを日夜自分を含め中国は研究しつづけている」と凛としてしめくくるのであった。他の発表に比べ、自信を漲らせて対峙するポリシーを語る姿はまさに異彩を放つものであった。 一方で、多くのメディアアクティビストたちが欧州を中心に集まっている中で、この中国人民政府からのスピーカーにポリシーそのものに対する疑問を呈する質問が生じなかったことが意外ではあった。一歩考え、本当に様々な立場の人間が集っている現場とあって、聞き、考えることに主眼を置いているのではと理解が進むと、世界規模で思索として伝達するアルスのシンポジウムの深さに感服するのであった。(この意味は「仕掛人インタビュー」のコーナーで) 通信・物流・通貨・・・あらゆる意味でのネットワーク化という便利さ楽しさの引き換えに、世界中でもはや日常がいつでも戦場になる脅威を背負ってしまった現実に世界中の支配層たちが苛まれ、解決のためにもがく現実のみが耳に入るのだった。まさにアメリカが個人に宣戦布告するのはその極みか。そして明日、INFOWARに巻き込まれるのは私たちかもしれない・・・ |
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知らない間にあなたは戦死するかもしれない
→統治する側のINFOWARに対し、私たち自身にとってINFOWARがどんなものなのか。そこを掘り下げたのがセッション2の部分。スピーカーは伊藤穣一氏に、サイファーパンクの指導者であるラッキー・グリーン Lucky Green 氏、そしてアイルランドの民間軍事プロフェショナルのマイケル・ウィルソン Michael Wilson 氏といきがよろしい。 伊藤穣一氏はネットワークダウンが起こす危険性について注意を喚起、セキュリティーの重要性を説く。ネットワークダウンはごく簡単に起こりうるもので、事故やテロの可能性を常に想定して管理することが絶対であるというのだ。それは通信だけでなく日常の生活をハイテクによって便利にするあらゆるネットワークに言えることで地下鉄やトンネルといった場においては大惨事が起きることは特別なことではないと指摘する。それに対しウィルソン氏は「ニューヨークの海底トンネルをアタックすることなんてオレには容易ですな」と突っ込みを入れ、プロにとっては簡単だよという視点からセキュリティー感覚の重要性と導入の必要性を説く。 ウィルソン氏はディズニーランドですらアタックの対象になる、というよりも無防備だと過去に指摘し、セキュリティーを導入させたことに触れ、アタックする側は一番脆弱でかつ最大限に効果的な所を狙って襲う狡猾さを持っていると考えなければならない「いつでもどこでもエレクトロニック・パールハーバー(真珠湾奇襲攻撃にかけて)は起こるのだ、それは攻撃されるまで分からないのだ」とあおる。そして「もはや戦争は国家対国家で行うものだけでなく宗教や信条などをもとにネットワークを用いて地球規模でヒエラルキーを持つような集団対国家というヒエラルキーというヒエラルキー対ヒエラルキーの戦いというかたちに突入した」と語り「このような何者がアタックするのか分からないカオスともいうべき状態に地球は包まれており、だからエレクトロニック・パールハーバーなのだよ、逃げられないのだよ」と言う。 ウイルソン氏の舌鋒は止まることなく「たとえばジョーイのカルテを改ざんすることなんていうのも電子化すればもっと簡単。血液型のところをちょこっと変えれば、輸血が必要になったら血液型ミスということで私が直に手を下さなくても一丁上がりですよ」とまで言う始末、ことさら情報化の対価というものは高くついているのだよ、だからセキュリティーだよということを煽る煽るのだった。 |
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◆日本ではアルスエレクトロニカのことをアートフェスティバルと定義しているが、アルスエレクトロニカそのものが未来論的なものに立脚しているため、より現実社会との関わりと効果を狙った取り組みが行われていることがこのシンポジウムで理解して頂けると思う。 |
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■ そしてあなたが世界を相手に戦争を仕掛けるかもしれない そんな肝試し的な論議の中で新鮮な問題提起をしたのが伊藤穣一氏。 刑務所に入ったからこそよりバージョンアップしてしまうという、今までのクライムアフェアーな世界でもよくあった、現実がクラッカーにも生まれつつあるというのだ。それもクラッカーという族として地球規模で連帯し、コミュニティーを醸成しつつあるというトレンドの進行。それはネットワーク依存社会の中で(ハッカー=悪)的なステレオタイプが何をもたらしつつあるのかを省みることの重要性を認知すべきだということが呈されているのではないかと私はその時思ったのであった。そのステレオタイプをめぐる誤解が理解のためのツールとなるべきメディアによって逆に増幅され、閉じたネットワークがレイヤーの様に地球上に重なりあう現在というものがINFOWARというものを深刻化する環境ではと感じてやまなくなるセッションであった。こわいこわいと煽ることだけではなんと無意味なことか・・・ →「コンフリクト(抵抗)の方法教えます」シンポジウムの最後を飾ったのは「ホワイトカラー版明和電機か?」(週刊アスキー福岡編集長)と会場を笑わせ沸かせたアメリカ RTM ark 社。RTM ark は「企業が法律上、人格を持った結果、人間を蹂躙し続けている」「これに抵抗するため、企業活動をサボタージュするための企業とした設立した」とCGによるPRビデオを上映しながらプレゼンテーション。「サボタージュを実行するベンチャーを投資するファンドを組み、ネット上で投資を募っております」と営業。ニューエコノミーを茶化しまくったプレゼンテーションでアート、そしてグラスルーツとして実際に INFOWAR を戦うスタイルをアクトして会場を圧倒してしまった。 聴衆は唖然とする人も多かったみたいで「何であなた方は抵抗運動をしているのにスーツに身をまとってるのだ!!」と彼らの「商売道具」であるヤッピースーツ(爆)に疑いを持って質問をする人が出る始末。 RTM arkの最新案件はメキシコ・ポポトラ村の村民たち。本当に田舎の漁村にいきなり映画「タイタニック」のスタジオがやって来た。しかし、村にはいいこと何一つ無いどころか迷惑至極。それに怒りを感じた村人は素直に表現を始めた。これを RTM ark は案件発掘、RTM ark流のメディアキャンペーンで全米のニュースにしてしまったのだ。 RTM ark の活動はまさにメディア上でのパフォーマンスとして、「感覚操作」「情報操作」を行うINFOWARそのもの。そしてたのしい権威へのハッキング。草の根、そしてメディアアクティビニズムとして最高の戦い方と武器がINFOWARには眠っているということを大いに教えてくれるガイたちであった。(RTM ark はレポートでより深く紹介します)彼らを最後に据えるのはまさに食後のお口直しとでも言うべきものかと感心してしまった。 →人類が始めて遭遇するコンピュータ、マスメディア、ネットワークによるグローバルコミュニティーの時代の陰ともいうべき INFOWAR。それは国家のレベルで、社会のレベルで、経済のレベルで、そして個人のレベルで様々なかたちで存在するもの。しかし INFOWAR ともいうべきものの存在について、様々なものがあるということを前提に論議を世界規模で重ねたのはこのシンポジウムが最初ともいうべきものではないのだろうか。 こんなに身の回りにあるだけでなく、自分自身にとっての武器にもなり得る INFOWAR というものに対し、目を向け続けることはとても重要なことではないのだろうか。今回のシンポジウムを取りまとめたゲルフリート・シュトッカー Gerfried Stocker アルスエレクトロニカセンター・マネージャーが「大国の軍事戦略担当者がメディアアクティビストやハッカーと information warfare について話せる場なんてあるかい、それがここで出来たのだよ。それってお互いにとって参考になるだろ」と語るように、単なる脅威ではなく、現実として解決してゆこうとする文化的側面からのトレンドの初めの段階の場として、考えを深めたことによって大きく機能したシンポジウムではなかったのではないのだろうか。 あなたならどう戦いますか・・・
コラム・編集:岡田 智博 futurepress@coolstates.com
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(c) OKADA, Tomohiro, The Cool States Communications, 1998