到着後、未だ粉雪の舞う外を見、
ホテルで厚着を直してタクシーを呼ぶ
ドアボーイが聞く「どちらへ?」
私「シネマレックスへ」
ドアボーイが微笑む。
「よろしいところを御存知で、何が今日はあるのですか?」
私「メガデモ大会」
ドアボーイ「いいなあ、私もグラフィックス、趣味でしているのですよ」
→シネマレックスは、閑静な住宅街の中の、公民館みたいな石造りの建物であった。
メディア文化アドミニストレーターのネットワーク間での紹介を通じて、事前に連絡を取っていた人を呼ぶ。
出てきたのは、まるでロンドンのクラブで出会いそうな、蛍光色の服に身を包んだ、一目で元気さがみなぎっていることが分かるかのような女性。
シネマレックスという場の、デジタルメディア工房、サイバーレックスをゼネラル・マネージャーとして仕切るカタリナ・ジヴァノヴィック。
早速、初めて来た私をまずはと案内する。
入り口の壁面には、世界各地からのコンテストやアートフェスティバル、アーティスト・イン・レジデンスの募集要項が所狭しと貼られ、その前で、カタリナは「外の世界へのチャンスを出来る限り掲示したいのですよ」と微笑みながら語る。
2階に上る。「ここはB92(デジタルメディアによる遊撃的な活動によって奇跡的に当時、存在していたベオグラード唯一の独立系ラジオ局)のシアター部門として生まれ、それがコンピュータやネットワーク、ビデオアートのセンターにまで拡がったものです」と説明する。
説明を聞いている間に誘われた小部屋には、デジタルビデオ編集機器がびっしりと収納され、若い映像作家たちが編集に打ち込む。
「ここはビデオアートのための部屋、B92のドキュメンタリー部門みたいに放送局レベルの機材でないけど、作品をつくるのには不自由のない設備でしょう」と語る。
1階に戻り、別の部屋を案内される。
そこには、何十台ものPC端末でそれぞれのプロジェクトを手掛ける、人々の姿が目に入る。
一つ一つのプロジェクトをカタリナは説明し始める。
それに応じて、アーティストやクリエーターたちが熱心に英語でプレゼンテーションをする。
セルビアのビデオアートのネット上でのアーカイブ、セルビアのポピュラーカルチャーを紹介するオンラインマガジン、セルビア人自身による若者のオンラインコミュニティーを作るプロジェクト。
異なる考え方や支持体制を持った、異なるセルビアの若き表現者たちがさまざまなプロジェクトを1つの部屋の中で展開し、それがサーバーを介して、インターネットに繋がっている。
「ここがサイバーレックスです」とカタリナは言う。
続いて、「ここは誰に対してもインターネットのアクセスやそれによる文化的な表現をすることに対して開放しています。CGやWEBづくりが出来ない人であっても、教えあって出来るようにしています」
「コンピュータや視聴覚機器を用いて表現すること、そして、メディアにアクセスして、情報を得ること、発信することが、セルビアの若者に対しての文化的救い、そして癒しを与えることが出来るのです。世界と僕は繋がっているのだ、孤独ではないのだと思えるということで」と話を続ける。
その横から、二十歳をこえたばかりかのくりくり頭が印象的な青年とその恋人に声を掛けられる。振り向くと彼らは端末の前で、プレゼンテーションを始めた。「世界に本当のセルビアを知ってもらいたくて、このプロジェクトさっき立ち上げたのさ…」
「そろそろ、始まりの時間ね…」カタリナがホールに促す。
この日は毎週開かれるメガデモ上映会の月1回の大会の日。プログラム技術のみでCGを描くメガデモ、その技を競って、セルビア中からCG作家が集まる。
100人を超える若者たちが集まり、次から次へと繰り出される作品に魅入っていた。
「レックスは、外からの刺激が閉ざされたベオグラードでただ一つ、楽しめるところなのさ」
メガデモ大会を見に来た、若者の一人が、私にささやいた。
手には、何か液体が入っているラベルのついていない瓶を持ちながら。
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