ars electronica festival - Next Sex Symposium -
生命科学の分野にまで突入した
内容が議論

レポート:シンポジウム

9/10 リンツ・オーストリア

→クローンが実現してしまえば性差が要らなくなってしまう。そうしたらセックスはどうなってしまうのだろうか。最先端の科学をアートの側面から表現し、議論するアルス・エレクトロニカ・フェスティバル。そのテーマは、IT情報通信革命の向こうにある生命科学の領域にまで突入してしまった。この「ネクスト・セックス」という問題提起のもとに、今年も最先端領域にいるアーティスト、そして研究者たちが成果や問題提起をした。

この項は、『週刊アスキー』2000年10月24日発売号に筆者が寄稿した原稿をもとにしております。

 


海野信也氏(写真:Sabine Starmayr)


東大で実験された人工子宮(海野信也氏提供:フェスティバルのプレス用に)


セルジオ・メッセーナ氏
(写真:Sabine Starmayr)


メッセーナ氏の収集した画像は会場のブルックナーハウスの特設ラウンジで会期中公開していた(写真:Sabine Starmayr)


ORFの取材に応えるナターシャ・メリット氏



「デジタルダイアリー」よりナターシャ・メリット氏提供:フェスティバルのプレス用に)

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踊るトランスジェンダー・メディア論者、アルキュール・ロザンヌ・ストーン氏

 

まずは人工子宮の可能性に騒然

→子宮すら人工化してしまえば母体の存在すら意味が無くなってしまう。
 その問題提起に応えたのが現在、山羊のレベルで最長の養育記録を持つ人工子宮を成功した東京大学医学部産婦人科チームの一員であった海野信也博士による報告だった。
 プロジェクトそのものは10年程前に展開されたもので、現在行なったとしても受精から出生までを人工子宮で行なうことはまだほとんど不可能に近いことであるという認識を示しているにも関わらず、どれ位の未来かは別として、少しでも可能性があるのではないかということを多くの徴収が感じ、センセーショナルを巻き起こした。
 この海野博士による情報提供に始まり、今回はテーマそのものが刺激的ゆえに多くのセンセーショナルを巻き起こしたものだったのである。

 

こんなことをしている俺は一人ぼっちではない

→インターネットによって、新しいセックスの楽しみが地球規模で開放されたということを直視させられたことでもざわついた。
 インターネット上で展開されている様々な性の表現を収集、探求に明け暮れているイタリアのメディア・アクティビストであるセルジオ・メッシーナ氏は、「インターネットは孤独な性を開放した」と語る。
  インターネットの開放によって、様々な性嗜好を持った人々が「こんなことをしているのは私一人だけでは無かった、もはや孤独ではないのだ」という連帯意識を生み出し、地球規模での特別な性嗜好を持った人々のコミュニティーが生まれ、そのことによって独特の性嗜好を持っていたために孤独感を感じてきた人々が開放されたと論じ、靴下フェチに、靴フェチ、足フェチにストッキング・フェチなどなど、様々な性嗜好サイトとそのイメージを次から次に見せつけられたのだ。
  現在の地球上全体のWEBトラフィックの8割近くがオンライン・ポルノによるもとと氏は指摘。
 「インターネットで最も巨大なコミュニティーは性嗜好コミュニティーで、この存在の大きさはインターネットの開放以降変わらず大きいものにある」と語る。
 そしてこの「インターネットによる、地球規模での性嗜好情報の交換とコラボレーションによって、更に新しいかたちの性嗜好のかたちを創造し続ける、未曾有の性文化時代に突入したのだ」と言う。

 

「私らしい瞬間」を見て!

→デジタル・スチルカメラを手にした瞬間「私が私らしい瞬間を収めたい」と目覚め、「私らしい瞬間」を撮り続け、フォト日記としてWEBサイトとしてあげているうちに注目をあつめ、その「プライベート・ダイアリー」を出版までしてしまい、留学先のソルボンヌ大学の法学部を辞め、転進を果たしてしまったというのは、ナターシャ・メリット氏。
 「私らしい瞬間」とは彼女自身のSEXの瞬間。
 友達や恋人とのその「私らしい瞬間」の日常をデジカメで収め、WEBサイトにアップデートし続けている。
  その「ダイアリー」のエッセンスは写真集"デジタルダイアリー"として欧米で出版され、注目を集めているのだ。
  「私らしさをただ表現しWEBにアップしただけ」とただ語るメリット氏、会場や地元公営放送ORFからの質問や取材に対しても飄々と答える。そんな彼女に矢のように突き刺さる質問にも、「自分のヌードやセックスの写真を『デジタルダイアリー』と出しても、好奇の目で見られたことは感じたこと無い」「まわりや友達も特別気にはしていない」と言い放つ。

→他にも、ピルによってもたらされた新しい性文化の登場を賛美する発明者自身の公演や、トランス・セックスを成し遂げたメディア論者による、メディアとして自由に性を選択できる時代の登場の予兆に関する問題提起と、今、女性である自分そのものに関する賛歌をパフォーマンスにし、会場を拍手の渦にするなど、様々な側面から「生殖の次の性」に関する考察が展開されていったのであった。

取材・編集・デザイン:岡田 智博  info@coolstates.com

 

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